5.Mar.2019社員が語りたくなるオフィスをつくるには | 株式会社CaSy
家事代行サービスをクラウドソーシングで仕組化し、コストパフォーマンスの高いサービスで会員数を伸ばしている株式会社CaSy。急成長中のCaSyを支えるオフィスをどうやって作っていったのか、その背景をインタビューしてきました。
Interview
新しいオフィスをつくる前に
以前はどんなオフィスでしたか?またこのプロジェクトに求めていたことは?
株式会社CaSy 白坂氏:前のオフィスは居住用のマンションだったのですが、社員数増加にともない席数が足らず全社員が集まるミーティングがある日には床に座って仕事をする人や、廊下でミーティングをする人が出るほど、窮屈な状態でした。会議室不足、スペース不足が顕著に表れていたので移転を決め、このオフィスが5拠点目となります。
私の前職での経験上、オフィスをつくる過程において社員にうまく関わってもらうことが大切だと強く感じていました。社員がオフィスに愛着を持ち、オフィスについて社外の方へ語るたびに、会社の理念が体にしみこんでいく感覚を知っていたのです。今回の移転をただの引っ越しではなく、“CaSyが大切にしている思想を伝えるメディア”として、オフィスをつくるプロジェクトにしたいと考えていました。そして、このプロジェクトを通して、社員がオフィスに込めた思いを語れる状態にしたかったので、我々の育成ターゲットとしている28歳の次世代リーダー社員と、経営陣を中心としたプロジェクトチームにしました。
このプロジェクトを成功に導くために、何を考えていましたか?
株式会社ディー・サイン 後藤氏:このプロジェクトは、空間を作る提案だけでは何か違うと感じていました。メンバーが個々に感じている「CaSyらしさ」、そして「社員にこんな考えを伝えたい」という経営陣の思いを表出させる必要があると感じていたのです。ですので、プロジェクトの進行と同時に、ワークショップをする企画を提案させてもらいました。
以前、弊社で増村さんのワークショップを実施いただいたことがあり、その時に「このプログラムはデザインする前のコンセプトワークにも発展できるんじゃないか」と思い、増村さんにコラボレーションを持ちかけました。
コンセプトとして表現したいことはワークショップで抽出し、オフィスに必要な機能や要件は別途打ち合わせの中でお聞きし、プラン策定・設計を同時に進めるという流れで進めました。
具体的にどんなワークショップだったのでしょうか?
アート・アンド・ロジック株式会社 増村氏:このワークショップは、関わった人たちのチーム力を上げることを目標にしています。よく企業理念や将来像の話し合いをするときに、だれもが言語だけで進めがちなのですが、言語と視覚(ビジュアル)でやりとりを往来することで、本質的に伝えたいことが1つにまとまり、意味を生み出し思考の体現につながる仕立てになっています。
今回は、最初に2グループに分かれていただき、「新しいオフィスに望むこと」を付箋に書き出してもらい、それらをカテゴライズします。この時点では各自の思いを表出させ、言語化させるというフェーズです。言語化をすると、参加者が同じ会社というバックボーンがありますので、共通項が見いだせるようになります。それを各グループで話し合い、コンセプト化してもらいます。今回は「SWITCH!!!」と「魔法使いのひろば」という、2つの案が出てきました。次にお互いの案についてプレゼンします。プレゼンを間に何度か挟むことで、自分たちの考えを集約する作業が生まれます。
白坂氏:2グループで別れて作業していたのですが、プレゼンを聞くと、言葉として表出されたコンセプト自体は違うのですが、その裏にある思いや考え方に共通するものがあるな、とお互いが気付くことが出来ました。逆に、経営層とは視点が違う考え方をしているということも見えてきたりして、良い相互理解が出来たと思います。
増村氏:そのあと、デザインに関するレクチャーとして、“色相環”とはどういうものか、フォントが人にどんなイメージをもたらすか、といった内容をお話しします。そのうえで、コンセプトにのせる色を3色選んでもらい、セレクトした理由を各グループからプレゼンしてもらいます。この時には「なぜ赤を選んだのか」ということを言語で表現しなくてはなりませんので、言語と視覚(ビジュアル)の往来が生まれます。
最後に、コンセプトを具体的なデザインに起こしてもらいますが、もちろん意味をもたせて考えてもらいます。プレゼンすることを想定して、参加者同士が言語と視覚(ビジュアル)で会話しながら、デザインを進めます。この作業はあえて、アナログな手作業でデザインしてもらいます。思考と手の感覚が研ぎ澄まされ、制作物にどんどん想いが乗っていくのです。
白坂氏:色鉛筆やハサミを使って工作をするなんて…小学生以来でしたが、楽しくて気が付いたらどんどんハマっていました。きれいに円を書くためにお茶を入れていた紙コップを使ったりして、創作自体が楽しいことに気が付き、みんなで和気あいあいと話しながら作業していました。
最終的に出来上がった二つの案を持ち帰り、後日全社に発表する機会をつくりました。誰がどのコンセプト作りに携わったかを明かさずに投票し、僅差で選ばれたのが「SWITCH!!!」です。
ワークショップを経て
どんなコンセプトに決まったのでしょうか?
白坂氏:「SWITCH!!!」というコンセプトには3つの意味が込められています。「!」はこの3つの意味とあわせて3本書かれています。
◆「切り替えのスイッチ」ON/OFFを切り替える。思考(右脳と左脳)切り替え、集中と緩和のメリハリをつけながらクリエイティブに働けるように。赤と青の色は、右脳と左脳の切り替えを表す。
◆「ひらめきのスイッチ」リモートワークする社員が多い会社だからこそ、オフィスは“来たら答えが見つかる場所”であってほしい。コミュニケーションが誘発され、1人では出てこなかった答えが見つかる場所にしたい。
◆「世の中の価値観を変えるスイッチ」我々が創出する価値によって日本の慣習や価値観をスイッチし、笑顔の暮らしを当たり前にしていきたい。
デザインフェーズ
コンセプトがはっきり見えたことで、デザインに影響はありましたか?
後藤氏:ワークショップの成果もあり、関係者が同じ方向を見据えてスタートできたプロジェクトだったので、デザインしやすかったですね。デザインするにも、なぜそこに存在するのか意味付けが必要なのですが、それを、クライアントも、僕ら提案する側も、同じレベルで理解できる“チームとしての土台”が整っていたと思います。このオフィスには沢山の意味が込められた場所をつくりました。
後藤氏:特に、長い時間を過ごす執務エリアは、コンセプトにもあったように、“来たら答えが見つかる場所”にすべく、まずは「オフィスに行った方が自分にとって良い状態だ」と思ってもらえる環境づくりを目指しました。リモートワークを承認している企業なので、社員の皆さんにとって“数ある働く場所の選択肢”のなかで、“このオフィス”を選んでもらえるようにしなくてはなりません。快適で使い勝手が良く、コミュニケーションが誘発され、ひらめきが起こるような空間にしようと考えていました。ワークセッティングは複数のタイプを設けることで、その時々の活動に合わせて選べる仕立てにしています。
社員の当事者意識をつくる
社員にうまく関わってもらうことを大切にしたいという話が出ていましたが、ワークショップ以外にも何かやってみたことはありますか?
後藤氏:プランが完成すると工事のフェーズに移ります。その段階で、工事中の施工会社さんにご協力いただいて、社員参加の壁塗りイベントを企画しました。会議室は2つ左右に横並びに配置されており、その壁を「SWITCH!!!」というコンセプトに沿って、“思考(右脳と左脳)の切り替え”をテーマにした色(赤と青)にしています。
白坂氏:壁を塗る前に、実は皆で落書きをしました。会社の成長を願って思いを書く人や、ロゴを描く人、経営ビジョンを書く人、いろんな思いを塗り込んでいます。オフィスが完成した後も「ここに僕はこんなことを書いたんですよ」と、楽しそうに来訪者へ語っている様子をよく見かけます。
このプロジェクトを経て、社員に何か変化がありましたか?
白坂氏:次世代リーダー社員の当事者意識はとても高まったように思います。このプロジェクトをより良くするために、そして社内へ思いを浸透させるために、一人一人が自分に出来ることを考えて実行してくれました。
例えば、単にオフィスの使い方を資料化するのではなく、新オフィスのところどころに込められた「意味」を覚えやすくするために、機能と共にその意味も盛り込んだ資料をつくってくれました。
また、SWITCH!!!の考えを反映した社員証をデザインしたり、この移転に合わせてクリーンハッカーという制度も考えてくれました。クリーンハッカーとは、ごみ捨て・掃除・植栽への水やり等、今まで担当を決めるまでもなかったことでも、誰かが手を動かせばよりオフィスが綺麗でいられるようなアクションを、他の社員を巻き込み、音頭を取って実行していくのがクリーンハッカーです。
クリーンハッカーの証しとして、社員証のストラップに“きらきら光る星のチャーム”がついています。このチャームは次世代リーダー社員がオフィス移転前日の忙しい中、手作りをしてくれたものです。チャームには社員の行動をきれいにする、オフィスをキラキラさせる、という意味を込めて作ってくれました。
このように、それぞれが当事者意識を持って「このオフィス移転の意義をどう他の社員に浸透させるか」ということをコミットしてくれています。
それぞれが生まれたひらめきを自主的に実現し、運用していく動きが出来始めていることが大きな成果ではないでしょうか。
完成後の反応
社内の皆さんの反応はどうでしたか?
白坂氏:来訪者が来ると、口下手だった人でも自らオフィスの説明をしています。社員が楽しそうに、オフィスの背景にあるストーリーを語っている様子を見ると、やってよかったと、嬉しく誇らしい気持ちになります。CaSyが大切にしていることを伝え、共感を紡いていくことの楽しさ、大切さを意識するようになり、オフィスをメディアとして使うということを学んでくれたのかな、と思います。あとは、ご来社された方からは「ここで働きたい、コワーキングスペースにしてくれないかな?」という反応をもらったこともあります。社員もそれを嬉しそうに周りに話しているので、気持ちが伝播しているようで嬉しいですね。
白坂氏:また、節目のイベントにあわせてキッチンで料理をして振舞うなど、場をフル活用しています。CaSyはリモートワーク可の会社ですが、以前と比べてオフィスに人が集まるようになりました。以前のオフィスは狭くて集中しにくい環境だったこともあり、全社員ミーティングを行う日以外に出社する社員はごく稀でしたが、曜日を問わず多くの社員がオフィスに来るようになり、そこかしこで自然に会話が生まれ、打合せがされています。きっと居住性が良いのでしょうね。また、毎週朝一番に開催している経営会議もリモート参加のメンバーが居てあたりまえでしたが、移転してからはなぜだかボード全員が出社して会議へ参加するようになりました。会議の生産性も高まったように思います。
インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。
出来上がった空間はこちらから詳しくご覧いただけます。
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